霧
ねことら
メガネをかけたままキスをしてもかちゃかちゃフレームが触れ合うばかりで、ひろすぎる部屋の中ではほかになんにも音がしない、孤独とはこういうものだと不意に悟ってしまう夜があった、わたしにもきっとあなたにも。
リフレイン。
深夜12時以降2割引きの惣菜と、残り物の冷凍食品と、炊飯器の冷えたご飯でまかなうありあわせの晩御飯のこと。
熱帯魚を入れた水槽のエアーポンプの調子が悪くて、近所のペットショップで買いかえようか迷うけれど、店を訪れるたびに脂っぽい肌をした店長がわたしをいやらしい眼でみること。
お彼岸が近づいてきているので、お義母さんの田舎へ帰らなければいけないけれど、子どもができないことや、わたしの少し薄暗い生い立ちに関して、冷たい言葉を浴びせられるたびに、いつだってかすかな無力感にさいなまれること。
リフレイン。リフレイン。リフレイン。
ふたりの間に張られた糸は静かにたわんでいたね、それでもとりたててフェイタルな問題に相対することはなかった、簡易的なセックスと、簡易的な快楽と、わたしたちは匂いのない幸福を明日へ適切に事務引き継ぎしていく。
リライト。
このものがたりはフィクションです(か
このものがたりはフィクションでした(か
このものがたりはフィクションです(ね
リビングは暖房がきいていないから、3月初旬の夜にしては冷え込んできていた。カーテンから覗く低く垂れこめた夜の雲は、一瞬ごとに、次の一瞬に侵されて、しずかにかたちを変えていく。あなたはいつのまにか石になり、硬質ですべらかな二の腕の中で、わたしは今夜も正しくおさまっている。メガネの縁が少し曇るのは、霧か、それとも、