わたし、という
みい
1. 父
自分で名前をつけたくせに
なんで
わたしの名前も
呼べないの
笑いながら尋ねると父は
つられて笑うのです
真剣に
それから、突然
他人でさえ覚えているのに
と言ったわたしを
ぶちます
ふと
記憶の男が
お前のせいだと言うので
わたしは救われるのです
2. 確認
わたし、透けて
必死に
抱きしめようとするあなたを
ごめんなさい なんかで
埋める夜
あなたの体を
文字化けさせたのは
わたしなのです
いっこいっこの文字をなでながらも
あなたの声は溶けてしまって
わたしはやっぱり
透けるだけで、けっして
溶けたりはしないことを
知るのです
3. リプレイ
わたし、という少女が
てんめつ、しながら
透明の嗚咽しかもらせないで
かわりに
吐き気をもよおします
たった今、私の中に
入ってきたばかりの
愛してる、としかくり返せない男は
お前のせいだ と言うので
あきらめて
だらり、とする うで
それがわたしそのもので
安心しました
あんまり白くて
わたし、という少女を
惜しみながら殺した男が
わたしのことを真実だ、と言います
清潔、なだけの、その
男の部屋を出て
どうしようか
と思いながらも
帰るしかないわたしは
どうして
一番少女らしいのか
困りながら、帰るのです
だまって
4. めまい
あたしの、ろれつが、まわっていないのか、
あなたはずっとわたしの話を聞きとれないで
いるのです。だから、お願い、わたしの発音
を返して欲しいのです。憎まない。憎んでな
んてない、いずれ知ってしまうことだったの
です、もうわかっていることなのです、わた
しはそんなことでは死なない、ほら、その証
拠に、男はもうわたしの前に表れない、わた
しをどうしても、殺して、しまいたかったの
だから、わたしのせいだと認めます、そして
むしろ、わたしは感謝しているのです、だか
らお願い、返して欲しいの、わたしの
声を
ほら、
なにもかもがまぶしくて
おかしい でしょ
笑って
5. 暗転
女性ホルモンを飲み続けるわたしに
あなたは、女の子だもんね、と言います
わたしはただ
あなたの隣に座るための
女の子でありたいのです
あなたがふと、泣いて
これもわたしのせいなら、と思います
足りないものを飲み続けて
脳の内側からじんわりとする
わたし、という女の子だけは