夜行サイクリスト
大村 浩一


夜更けに
タンタンとタイヤを鳴らし
鉄の階段を降りて
僕の自転車が
外へと出掛けて行きます
(ほんとうは僕の自転車ではない
 きみから借りたままのもの)

マウンテンバイクだから
走り出せば
ブロックタイヤのごうっというタイヤノイズと
チェーンの微かなきしみ
少しふらついて

まちがえてはいけません、
僕は乗っていないのです
いないのに
自転車だけが
しかもきみの居る北へではなく
なぜか西へと

金谷の薄暗い夜泣石のそばを通り
西口さんの居る浜松市街を左に逸れ
タンクローリーの横転した名阪国道を疾駆
神戸の混雑を抜けて加古川、姫路、岡山、あとはおぼろ
たぶん昔にあいつと行った長崎の松浦まで
姿のない僕がきみの
自転車を漕いで

僕は何をしたかったのでしょう
何かきつい事を言おうとしたけど
そんなことしたがる自分がなおさら嫌で
きしきしきし夜鷹みたいにそれでもいたたまれず
それでこんな風に
さまよい出るのだと


(あのサイト、本当になくなっていました)


悪夢はその人を癒す為に見ると聞きましたが
夢に殺される事もあるのかもしれません
いやな人たちの家が燃える
どうという気もしません
僕のした事は 他の人のせいで
他の人がしたのよりも少し早く
消されていく
自転車は走っています
自転車は走っています
広い空の下を走ってきたのに
流れる地面しか
思い出しません


いまのところ
朝には戻っている
そんな事を何度かくり返していますが
いつ居なくなっても不思議ではない
覚悟はしています


2004/09/14
大村浩一


自由詩 夜行サイクリスト Copyright 大村 浩一 2004-09-29 12:56:08
notebook Home 戻る