ノート(緑透火)
木立 悟
花が居て
狂いたい
と言った
なにもしてやれないので
川にうつる枝のなかに立ち
はらわたの森をひらき
ここにお入り
と 言った
蝶が来て
狂いたい
と言った
なにもしてやれないので
壁にうつる川の光の前に立ち
はらわたの森をひらき
ここにお入り
と 言った
私が居て
狂いたい
と言った
なにもしてやれないので
川をわたり 自転車に火をつけてから
はらわたの森をひらき
ここではない
と 言った
誰もいなくなってはじめて
あなたが
狂いたい
と言った
なにもしてやれないので
川を流れる名前をすくい
はらわたの森をひらき
ここに はじまる
と 言った
かなえられない願いたちが
さまよいのなか立ち止まり
川の向こうで燃えつづける
鏡と光の歯車を聴いていた