偽りの王子
智鶴

貴女の華奢なその肩に
僕の全てを捧げられはしない
抱きしめるのも憚られるほど
気付けば僕達は触れ合わなくなった

毎朝絶望と共に目覚め
絶望と共に日々を過ごし
一日と共に息絶える
感じ得ることの全てが虚像のように
僕を惑わせて消える

僕の世界は全てが偽りだった
温い呼吸も冷えた体温も
そして腐った血ですらも
僕にとっては幻だった
色付くことが罪だと信じて
必死に生きることを拒んでいた
ただ必死に

そうだ
何かに似ているんだ
貴女に触れて知ってしまった全て
貴女に知られてしまった全て
鍍金の剥がれた王子のような
その唇にキスをして
旅立っていった燕のような

白痴の頃には戻れないんだ
知らなかった全てを忘れてしまったから

ただ、もう一度
もう一度だけ
全てを偽りに纏った僕にさえ
貴女の微笑みに触れることが許されるなら
せめて
貴女の傍らで死にたい


自由詩 偽りの王子 Copyright 智鶴 2010-02-25 01:22:22
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