アレクサンドラの撤退/加工技術について
真島正人


球体の遠心力が
技巧的な楽器の音のようにかき消えていった
技巧ではいつも歯が立たないのだから
やめておけば、と僕は
それにいった
それは歯をむき出して僕に反抗して
怒りに狂って僕の両親から青春を奪おうとした
でもすべては過去に行われて過ぎ去ったことなので
その牙は食いちぎれなかった
その牙は今度は
レスター・ヤングのレコードをつまみ食いしようとした
それにも失敗した
牙はぐちゃぐちゃになったレコードを吐き出すどころか
レスター・ヤングの思い出に満ちた風情のレコードプレイヤーを形作り
吐き出した
どうして、
と僕が問い掛けると
牙は控えめに光った
季節は冬の終わりで
新しいセーターの毛は荒かった
友人は一人結婚をして
気ぜわしく
雰囲気を変化させていた
僕は転機を感じて
この牙をよく洗い、
水でゆすいで
加工して削った
僕の口の中の物足りない部分にはめ込むと
それはぴったりとはまり込んで、
無意識に『猥談』を話すようになった
僕は僕の中に僕ではない資質を
巧く手に入れたのだった
僕はねじれ
僕の表面と僕の内部は
薄いコーティングのようなもので区切られ
分離し
二重になり
僕の内部は極端に真剣に
真面目になっていった
やがて僕は僕のはめ込んだ牙が
外の鋳型に代わったことを理解すると
それを巧く破り
咀嚼し終えたチューイングガムのように
口から吐いて捨てた


自由詩 アレクサンドラの撤退/加工技術について Copyright 真島正人 2010-02-21 15:04:50
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