一度話した言葉
キムラタツオ

一度話した言葉を自分に禁じていく
だからどんどん話せなくなっていく
言葉がなければ
話したいことも失われる
何故禁じたのかはもう判らない
静かな日々が。

楽器が弾ければよかった
言葉はなくとも
けれど体は複合の管だから
口を開けて風を吹きすさぼう
雨水が溜まって水琴に鳴らそう
耳を強く強く塞いで打楽器を刻もう
一つの体でメロディーを奏でた僕は生きていた
ヴォーカルは言葉を禁じられているけれど緩やかなスキャット

その時に歌ってくれた人を
僕は忘れない
遠くから僕を聞き当てた人
僕は複雑な管だったから
その人の歌声を
体に通した
  震える僕の体という意識全体
その歌は僕の禁じた僕の歌だった

けれど僕は言葉を禁じていたし
同時に何も話したくなかった
だから歌い終わると歌は消えて行った

その人がまだ歌いたそうなそぶりで立ち去ったあと
ぼくは自分の禁忌を解いて
この詩を書きはじめた
それがあれからあった事柄だ
禁忌は破られなければならなかった
詩を書くときはいつもそうだ

思い出した
だから僕は自分に言葉を禁じたのだ


自由詩 一度話した言葉 Copyright キムラタツオ 2010-02-20 17:59:14
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