恋の後引き
番田 

何もわからない心で歩いていくと本屋に立ち寄った。入ったことのない喫茶店でコーヒーを頼むと高い料金を支払わされて、そこからはい出そうとしていた。受験に失敗した僕は、特に向かおうとする場所もなく歩いていくばかりだった。

朽ち果てたような街路樹が無限に続いている。不況のガソリン高という世相を全く感じさせない二月の風はアレルギーの肌には死にたくなるほどに、僕に冷たく吹きかっている。夕べ開けられたようなビールのケースがいくつも積まれている極彩色のマットの敷かれた通りを抜けると、サラリーマンの行き交う人並みの間を抜けるようにして歩く。もう五浪目なので、仮にどこかの大学に入ったとしても卒業すれば厳しい社会からの圧力が腕を組んで待っているだろうと、ぼんやり参考書や過去問題を図書館で開こうとするほど大学の門は固く閉ざされ、開こうとするほど、どんどん遠のいていくように思えた。親にはもう受験のために支払う財力もなく、「他の道に進め」と言われてもいてこの先生きていけるのかすら絶望的で、それに大学に入ったとしても気難しい僕がチンピラ連中とうまくやっていける保証はどこにもなく、通帳には少なからずの小銭が舞っていた。(それともこの僕を貧乏だと思っているだけなのか)こんな時間だというのにベンツが行き交う。この街に越してきた頃は、欲しいと思ったものは女子高生でも手にしようと思えた。ビルの脇に沈んでいこうとする夕日は速度をはやめ、通り過ぎる車の窓ガラスは数センチ開いているものもちらほらとあった。

厚手のコートやダウンを脱ぎ捨てた少女たちの装いは十分に軽さを増し、極彩色をした歌舞伎町の看板が遠くに揺れている手前に吉野屋と松屋があり、マクドナルドも曲がったところに赤い看板をぎらつかせていたのかもしれない。この季節にしては少し厳しすぎるような風が巻いているのか、それとも僕のハートが寂しいだけなのだろうか。


散文(批評随筆小説等) 恋の後引き Copyright 番田  2010-02-20 15:09:48
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