指がちくわに刺さってしまった
たもつ

 
 
右手の人差し指がちくわの穴に刺さって
抜けなくなってしまった
ちくわはとても嫌いなので
食べるわけにもいかない
そのままデートに出かけたけれど
あいにく恋人もちくわが大嫌いなので
食べてもらうわけにもいかず
恋人は始終不機嫌そうにしていて
道の途中でどこかに行ってしまった
右の耳が痒くて掻こうとしても
ちくわが邪魔で上手に掻けない
かといって他の指では駄目なのだ
右手の人差し指とは気持ち良さが違うのだ
何とかして抜かなければならない
ここはひとつ逆転の発想が必要、と思い
引いて駄目なら押してみろと
押してみると指は奥まで入り込んで
ますます抜ける気配がない
こんなの発想の逆転じゃない
指がちくわに刺さったと思うからいけない
ちくわに指が刺さったと思えばなんとかなる
なるわけがない
交番に行っても
民事不介入です、と断られ
病院に行こうとしても
こんな日に限って犬猫病院しか見つからない
専門家にみてもらいにちくわ屋に行ってはみたが
生ものですからお早めにお召し上がりください
と丁寧に教えてもらった
すれ違う人がみな
かわいそうな人を見る目で通り過ぎる
確かに自分は今かわいそうな人かもしれないが
おそらくかわいそうな人の意味が違う
気がつくととっぷりとした夕暮れで
ちくわの穴から覗けば
夕日がきれいに見えたかもしれない
でもちくわは抜けないし
相変わらずちくわが嫌いだから穴を覗くのも嫌だ
このまま放っておいたら腐ってしまう
腐ったちくわなど、腐ってないちくわより嫌いだ
冷蔵庫に入れるしかないのだが
ちくわは一向に抜けない
ならば自分ごと冷蔵庫に入るしかあるまい
人として生まれてきたからにはいつか冷蔵庫に入る日が来る
漠然とそのような覚悟はしていたけれど
まさかちくわのせいでこんなことになるとは思いもよらなかった
扉をしめると暗くて寒い
自分が入るスペースを確保するために
食べられるものはすべて外に出してしまった
ちくわが非常食になるのが
せめてもの救いだった
 
 


自由詩 指がちくわに刺さってしまった Copyright たもつ 2010-02-19 19:34:21
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