海豹に抱かれて
楽恵
傾いた春の海、季節の春分点から誕生したばかりの
太陽を浴びる雨
真珠色に輝く鱗の人魚より、二足の人間に目覚めるための進化の探求
我が子の足跡を追いかけて
夢の境界から、氷の白地に這い出すアザラシ
私の分身であるアザラシ
凍てついた瀕死のアザラシ
アザラシの呼び声に気づいて
ふたたび海辺に戻ってきた人間の女
すかさず女に抱きつくアザラシ
悲鳴
息のような泡を吐き出す、海まで引きずり込もうとしているようだ。
生臭い息をつく
アザラシと女の
格闘
動物の退行と
誰もが懐かしいあの胎動との葛藤
氷河に真っ赤な血が流れる。
呪いと
生誕を祝う血潮。
裂ける断末魔の叫び
(我が子よ)
永遠のような沈黙
アザラシの毛皮を身にまとい
まだ血なまぐさい風に
金色の髪をなびかせて
歩き出す裸の女の物語