海豹に抱かれて
楽恵

傾いた春の海、季節の春分点から誕生したばかりの
太陽を浴びる雨

真珠色に輝く鱗の人魚より、二足の人間に目覚めるための進化の探求

我が子の足跡を追いかけて
夢の境界から、氷の白地に這い出すアザラシ

私の分身であるアザラシ
凍てついた瀕死のアザラシ

アザラシの呼び声に気づいて
ふたたび海辺に戻ってきた人間の女

すかさず女に抱きつくアザラシ

悲鳴

息のような泡を吐き出す、海まで引きずり込もうとしているようだ。

生臭い息をつく
アザラシと女の
格闘
動物の退行と
誰もが懐かしいあの胎動との葛藤


氷河に真っ赤な血が流れる。
呪いと
生誕を祝う血潮。

裂ける断末魔の叫び
(我が子よ)
永遠のような沈黙


アザラシの毛皮を身にまとい
まだ血なまぐさい風に
金色の髪をなびかせて
歩き出す裸の女の物語




自由詩 海豹に抱かれて Copyright 楽恵 2010-02-19 17:31:39
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