なまり
高梁サトル


おまえの気まぐれさは 朝霧のようなもの
昼がくれば晴れて 夜がくれば澄み渡る

古代ローマの少年王ほど 傲慢ではないが
猫なんて 可愛いらしい無邪気さでもない

濡れた衣服を どうすることも出来ずに
太陽が怖い と日陰に駆け込みながら
喉が渇き切ったときの 一滴の唾液の甘さを味わっている

大量の薔薇をかき抱き これは
華やかで賑やかな 年中止まないパーティーの装飾だと踊り
傍らで孤独に寄り添い ツルゲーネフやプーシキンの詩を歌う

例えば そんなものだ



よく逃げ出しもせず 堂々と立っているがね
足の甲をよく 見てみろ
大地に打ち付けた杭に破れた 傷口が流血で染まっている
そんな繊細さで 愚鈍を演じて何になる?

何になるっていうんだ?

素直に嫌々をしていた 過去のおまえに出会い直したいね
そして言ってやりたい
中毒と陶酔は 別物だということを



ワインを飲むたびに 息を吸い込むたびに
少しずつ腹に 溜まっていく
そのうちに 爪先から髪の先まで異常値を示して
音楽を聴く耳を失くす 絵画を愉しむ心を失くす
そして何が 自分の幸福かも知らなくなる
その深刻さは 計り知れない
何かが滅びるとき それに纏わるすべてが滅びる
その意味が 理解できないなら

過剰に望むな 駄目にする



おまえはね
今 少し 分からなくなっているだけだよ
何が 何だか

それももうすぐ 思い出せるはずだ

それまでは 口癖にしていなさい
「なにも なんでも ない」って
みじかくて いい やすい 単語だろう?

わかったね なまり


自由詩 なまり Copyright 高梁サトル 2010-02-14 22:12:13
notebook Home 戻る  過去 未来