悲しみの開発
梶谷あや子

 おんながいるみた
いだ ぼくは上着の
前をたぐり寄せる
無意識に かたく編
まれた足場を滑って
いた ここは工場で
なく夕焼けで いつ
も半透明の粒々がく
っついている 姉は
いまはいない 銀色
い 手紙を空のまま
延ばしていた 左足
のこうに 擦りよっ
てくる髭に 下生え
を緩くつかまれて
引き抜かれる時間が
なめらかに割れてゆ
く それは女ではな
い けれど赤が ぼく
のひとみに染み渡っ
ていくのを 胸もと
の手がゆっくりと混
ぜかえす はげた壁
には半透明の水が塗
りたくられている
足の下で凝り固まっ
た錆が ほころんだ
果物のように 潰れ
たい小さな衝動で開
きながら 形をかえ
てぼくの束ねた紙の
色に朽ちていく





自由詩 悲しみの開発 Copyright 梶谷あや子 2010-02-14 21:14:52
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