家族アフェア
フミタケ

ぼくは
どくしん
さいしなし
だから家族について息子の立場でしか語ることが出来ない


家族の間ではお互いの事について案外何も知らなすぎていたりする


母親は耳が遠い
46時中音楽な僕には何かと都合がよく
ありがたいとさえ思うのだが
そのため別床の父親が夜通しひどく咳き込んで著しく体調を乱している事にも実感が伴わないのか
生来の楽観主義だからか
あまり危機感を抱いているようには見えず
医者嫌いの父親に診察をすすめるのは僕だけのようなのだ
祖父は祖父で
母親が夜の9時過ぎまで戻ってこなくても
どこに何をしに行っているのかまるで知らなくて
それは
外出しているときの僕の事を母親がまるで知らない事と全く同じ
おそらく
いろいろ干渉される懸念からの見えない予防線が機能しているんだ


家族の間ではお互いの事について案外何も知らなすぎていたりする


妹が結婚したときもそうで
家族全員が彼女の妊娠にひどく驚いた

そういえば
僕がまだ幼い子供だった頃
自宅の庭で
とても可愛らしいけど全く知らない女の人におもむろに首を絞められた事がある
僕は全く無抵抗のまま、なすがままだったのだが
その人は手を離し
ひどく泣き
泣きじゃくり
僕に何か優しく言ってからいなくなったのだ
父親は家族の中心であるが故か
家族全員からの様々な影響で
家の中に居場所が無いに等しい
物理的には一番広いスペースを自室として確保しているのにだ
書斎はあるにはあるが
色々な状況的干渉により
思うような空間を全く構築できず
それは妥協の果ての宙ぶらりんな産物となっていて
迷路のような様相を呈し
それでもなお
辛うじて父らしい宇宙をかもしてもいる

僕が「まともな」仕事に就いた時
家族はみんなとても安心してくれもしたが
どんなに仕事と人生に葛藤や違和感をおぼえていようと
そんな事には何の関心もないようだった
僕は職を変え
不安定ながらも小さな充実感のようなものを少しは味わえるようになったけれど
家族は今の僕に
不満と不安をいだくのだ

未来への保証とか
昔を懐かしむより
とにかく今を慈しみあえたらいいのになんて
思春期の子供みたいな事をもう本気で求めたりしない
母親は僕がなくした時間を悲しむけど
もう出かけなくちゃいけないから
くちびるを噛んで厄をはらうんだ

毎朝誰かが庭を掃除して
花瓶の草花には水があたえられ
昼には服が洗濯される
夜には暖かい料理が並び
一人きりで一日を終えずにすむのだ
これ以上望める事はないよ
これ以上満たされる事はないよ
何にもいらないし
したい事もなくなるし
自分が誰なのか分からなくなるほどだよ
この2年くらい間に
妹が嫁にでて
父親が癌から一応の生還をし
母親が鬱から立ち直り
祖父は毎日神棚に手をあわせ
花を愛し、いつも家中を花々で埋め尽くした祖母が世を去って
僕は12年ぶりにこの家へ帰郷した

いつかみんなここからいなくなり
僕一人だけになる日が来るのだろうか
広い家を塵と雑草だらけの荒れ地にしてさ
もう一度ここから遠くへ
ずっと遠くへ
一人でどこか遠くへ荒れ地を行ってみようか
かつては花々に囲まれて
ご近所さんや野良猫やなじみの浮浪者が頻繁に賑やかに音連れたこの庭に
やがてまた深い深い夜が降りて来て
窓をシトシト雨が打つのをずっと見ているのも悪くはないだろね
でも
その雨の中を歩いて行かなくちゃ
冷たい雨にも自分を晒して歩き出さなくちゃ
誰かを愛さなくちゃ
いきているうちに出来る事はひとつだけ
深い夜を越えて行くように
家族へできるただひとつの事を
家族にはいつも
明日なんてありゃしないんだから


自由詩 家族アフェア Copyright フミタケ 2010-02-12 02:29:53
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