家出のよる
吉岡ペペロ

中二のとき家出をした

ぼくはすこし複雑な環境にいた

遠い親戚が経営している病院の

ぼくは病室をあてがわれて住んでいた

妹にはその隣があてがわれていた

病院の四階が院長夫婦の住まいだった

ご飯は院長夫婦と食べた

夫婦には子供がいなかった

ぼくと妹は食後リビングでテレビを見ながら

病室にもどるまでを夫婦とお喋りして過ごした


病室にはベッドと備えつけのテーブルがあった

学校から帰宅すると

布製の白地の学生カバンをベッドに投げおき

テーブルのまえに座ってぼうっとする

ぼくの病室には非常階段の扉があって

そこから友達が出入りしていた

夕方にもなると私服の友達で賑わった

学校のこと、勉強のこと、女の子のこと、お笑い番組や芸能界のこと、

その日はそれぞれの親のことを話していた

ちょっと遠いこころになって聞いていた

ぼくには親がいなかった


家出しようよ、

いつのまにかそんな話になっていた

ぼくには家出をする理由がなかった

いや、友達にもなかったのかも知れない

院長夫人にご飯よと声をかけられるまえに

ぼくたちは家出を決行した


二月だった

あたりはもう暗くて

ぼくたちは市営球場に向かっていた

みんな甘えている

家出といっても帰る時間が遅くなるだけのことだ

院長夫婦と妹に申し訳ない気持ちになっていた

ところが誰ひとり家に帰らなかった

ぼく以外さむいさむいと言いながら寝てしまった

ぼくは何本目かの煙草を吸いながら

ずっとこんな曖昧なよるのなかにいたと思った

ぼくに心配させるべきひとはいなかった

だからじぶんにだけは

家出の理由があるような気がした


自由詩 家出のよる Copyright 吉岡ペペロ 2010-02-11 08:07:18
notebook Home