春が目覚めれば
窓枠
大好きなあの子が笑っているとき
ぼくは空気になった
冷たいアスファルトの上
共有する呼吸を知った
ひとつになって
やわらかくなって
ぼくらの心臓はまるくなる
おじいさんになって
おばあさんになって
せなかもまるまって
ながい冬が空へと帰っていく
さよならをして
満開の枝垂れ桜を見上げれば
ぼくの頭も垂れていく
大好きなあの子が泣いていた
ぼくがあまりにも
しわしわだからだろうか
大好きなあの子は泣いている
ぼくは空へは帰らないのだと
土になった
孫たちと戯れて
成長する足跡を見守って
月日を重ねれば
ぼくは物知りになる
いつかあの子に聞かせてやろう
大好きなあの子にうたってやろう
ながい冬が空へと
帰っていくころに