石
アンテ
川の向こう岸にあなたがいて
手のひらにちょうど収まる薄っぺらい石を
丁寧に丁寧に磨いています
わたしは何度も手を振りながら
早くこちらへ投げてよこしてと
大声で叫びます
そのたびあなたは少しだけ顔を上げて
首をかしげて
また大切そうに石を磨きます
太陽が西に傾くころ
ようやくあなたは立ち上がって
ぎこちない構えから
腕を鈍く振って石を投げます
けれど川幅は広すぎて
石は真ん中あたりに落ちると
幾度か水面を滑ってから
ゆるやかな流れに呑み込まれてしまいます
わたしは叫んで
夢中で川に飛び込んで
底にあるはずの石を探します
けれど何度潜っても
石は見つからなくて
そんなはずはない確かにここに落ちたのにと
水面から顔を出すと
わたしなど最初からいなかったように
あなたはつぎの石を見つけて
愛しそうに磨いているのです
この文書は以下の文書グループに登録されています。
びーだま