アンテ


川の向こう岸にあなたがいて
手のひらにちょうど収まる薄っぺらい石を
丁寧に丁寧に磨いています
わたしは何度も手を振りながら
早くこちらへ投げてよこしてと
大声で叫びます
そのたびあなたは少しだけ顔を上げて
首をかしげて
また大切そうに石を磨きます
太陽が西に傾くころ
ようやくあなたは立ち上がって
ぎこちない構えから
腕を鈍く振って石を投げます
けれど川幅は広すぎて
石は真ん中あたりに落ちると
幾度か水面を滑ってから
ゆるやかな流れに呑み込まれてしまいます
わたしは叫んで
夢中で川に飛び込んで
底にあるはずの石を探します
けれど何度潜っても
石は見つからなくて
そんなはずはない確かにここに落ちたのにと
水面から顔を出すと
わたしなど最初からいなかったように
あなたはつぎの石を見つけて
愛しそうに磨いているのです



自由詩Copyright アンテ 2003-10-05 17:29:50
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びーだま