温度
真島正人

海の稜線が光ると僕は
それがある種類の
誘導光だと
感じる
あの光が誘導する物事は
とても難しいのだけれども
僕たちの大事な部分と結合している

そんな時間とはまた
違う別の時間に
遠くの町は美しい夕暮れに飲み込まれている
生きている遺跡のような姿で
喫茶店の中の厨房で
まだ若いパティシエが
今日のタルトに苦心をして
他のいろいろな問題事も
ケーキのクリームの中に滲ませている
彼の瞳に虹が見える
虹は
彼のうつろの妄想の産物

そして
深い海の底で
ときには秘密が暴かれている
こんな時間にも
僅差で
不幸を免れた麦畑が
刈り入れに静かに従うとき
鳥たちは自分たちで
思案する
この麦畑の
隠し事は
俺たち以外の誰が暴くのだろうかと
限られた時間の中で
考えられるだけ考えそして
彼らは垂直に移動する
冬の季節へと
羽根を
気にしながら

地上では
幾億もの案山子が
呆然と立っている
彼らも何かを思案している
脳のない頭で
麦の穂の香りにむせ返りながら

青銅は
錆びていて
冷たいけれども
だから僕は思い出す
人の秘められた
温度


自由詩 温度 Copyright 真島正人 2010-02-09 00:04:18
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