スローモーション
いすず

あなたの手が翻る
そうね、機嫌でもよいようね、あなたのことだから 前触れなんてないけど
あの歌の指揮でもしているの?
そうね、たしかにそんなふうな旋律をくちづさみながらだわね

そんなこともあったわね
あなたの手がわたしのあごをはさんで にこりと笑い返した
その瞳の黒い深遠さが わたしを虜にした

どんなに記憶が揺らいでも
あの頃のあなたが鮮明で
くるしんでいることは わたしの敗北でしょう
ひとりにはもうなれたけれど

スローにモーションかけて
熱唱をふるったあなたも健在
歌でごまかしがないのならば
どんな花束よりも豪華なラインナップだったわね
星が煌く夜には思い出す
あの手のぬくもり
ふたつの影がのびた街路灯の下

スローなモーションもブギもいいから
もう一度あたえてくれないかな あの時の夢を
でももうあなたは出演拒否かもしれないね

そしたらいいよ ほかの人でも
でもね あなたの代わりには誰もなれないね

そう あの星の夜にみた夢の続きのようには甘やかには・・・


自由詩 スローモーション Copyright いすず 2010-02-06 22:13:11
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