私の愛したサテュロス
高梁サトル
重いドアをから入ってきた日差しが、また去ってゆく
追い掛けてもだめ
太陽はおまえのものだけではないから
悲しげね
寂しげね
だから言ったでしょう
おまえは野の兎を捕まえるように夢中になっていたけれど
そうではないの
もっと風を掴むように
おまえが愛したサテュロスは死んだの?
いつまでも待っても帰ってこないわ
緩やかなウェーブのかかった前髪を撫でながら
2人でブランケットに包まって
本を読んでとせがんだわね
「リヴィエラ」だとか「リヴェイラ」だとか
発音がめちゃくちゃな
可笑しくて笑ってしまったの
皆はあなたの歌声が聞きたいのだろうけれど
私はその下手な朗読を何倍も愛していたのよ
時々、隣に私がいることを確認するように
キスをせがんで息苦しいくらい抱きしめる
「朝になっても消えてしまわないで」
その一言にどれだけあなたの孤独を感じたか
・
鳴くのはいつも雄ね
埋まることのない空虚感の中には
常に稲妻が放電されていて
いつも身の危険と隣り合わせなのでしょう
薔薇の蕾を切ることにも心を痛める私には
嵐の夜にひっそりと
あなたが傷付かないよう祈るばかり
・
それでもあの頃、
全てを捨てても
あなたに賭けようとしたことは真実なの
愛し合う日々が報われるなら
有意義な結末なんていらなかった
今更言うのはずるいかしらね
・
「愛してる」
それ以上の言葉が見つからなかったの
「愛してる」
それ以上の発想が生まれなかったの
一日がたちまちに過ぎていった
我を忘れるほど
夢中になりすぎていたのね
・
「星冴ゆる 凍える頬の 柔らかさ」
真冬の夜にお互いの頬を温めあった
あんな優しいだけの恋、二度とできない