私の愛したサテュロス
高梁サトル


重いドアをから入ってきた日差しが、また去ってゆく
追い掛けてもだめ
太陽はおまえのものだけではないから
悲しげね
寂しげね
だから言ったでしょう
おまえは野の兎を捕まえるように夢中になっていたけれど
そうではないの
もっと風を掴むように

おまえが愛したサテュロスは死んだの?
いつまでも待っても帰ってこないわ


緩やかなウェーブのかかった前髪を撫でながら
2人でブランケットに包まって
本を読んでとせがんだわね
「リヴィエラ」だとか「リヴェイラ」だとか
発音がめちゃくちゃな
可笑しくて笑ってしまったの
皆はあなたの歌声が聞きたいのだろうけれど
私はその下手な朗読を何倍も愛していたのよ

時々、隣に私がいることを確認するように
キスをせがんで息苦しいくらい抱きしめる
「朝になっても消えてしまわないで」
その一言にどれだけあなたの孤独を感じたか



鳴くのはいつも雄ね
埋まることのない空虚感の中には
常に稲妻が放電されていて
いつも身の危険と隣り合わせなのでしょう
薔薇の蕾を切ることにも心を痛める私には
嵐の夜にひっそりと
あなたが傷付かないよう祈るばかり



それでもあの頃、
全てを捨てても
あなたに賭けようとしたことは真実なの
愛し合う日々が報われるなら
有意義な結末なんていらなかった

今更言うのはずるいかしらね



「愛してる」
それ以上の言葉が見つからなかったの
「愛してる」
それ以上の発想が生まれなかったの
一日がたちまちに過ぎていった
我を忘れるほど
夢中になりすぎていたのね



「星冴ゆる 凍える頬の 柔らかさ」

真冬の夜にお互いの頬を温めあった
あんな優しいだけの恋、二度とできない


自由詩 私の愛したサテュロス Copyright 高梁サトル 2010-02-05 21:24:03
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