もしもし亀よ、かめきちさん
窓枠
ぼくとかめきち
出会いは私が小学生の時だった
父ちゃんに連れられて
夜店で買ってもらったゼニガメ
ゲームにも出てきたような名前で
レベルやHPとかあるのかなって
当時は子供心をくすぐられた
(後から知ったのだけど、クサガメの子ガメなんだってね)
名前はかめきち
漢字で書けば亀吉
当時は時代劇も好きで
漢字で書いた方が強そうだと思ったけど
てやんでぇ
なんて言われたら怖いので
かめきち
と、大きく紙に書いて名命したんだ
水槽から何まで父ちゃんに買ってもらって
餌も毎日あげた
水かえだって週に一回はした
学校から帰れば
鞄も宿題も放り投げて
母ちゃんに怒られながらも
近所の河原で散歩ばかりしていた
そのたびにレベルアップしていくような
かめきちが愛らしくて、自慢で
友達に見せびらかしてばかり
強くなる
それイコール格好良い事だと
認識していたあどけない日々
蟻と戦わせてみたり
カブトムシと戦わせてみたり
私は、犬や野良猫相手に吠えてたっけ
もちろん目標は母ちゃんを倒すことだぞって
毎日が楽しかったんだ
(大人になっていけば、沢山の事を知らなければいけない。忘れてしまったものの多さのなか、私達はどれだけのものを取り戻す事ができるのだろうね)
かめきちとぼく
かれこれ数ヶ月が過ぎ
いつからか、かめきちが王様で
私が家来のような役柄を築いていた
足の遅いかめきちは玉座に座り
その横で立ち尽くす
私はさしずめ近衛兵
守ること
そのむつかしさを知る時期でもあった
いつもみたく河原で散歩していたその日
道端まで進軍したのが間違いだったんだ
目を逸らしていたほんの一瞬の出来事
車の通り過ぎる音に振り返れば
そこには見るも無惨なかめきちの姿
死ってものが受け入れがたく
子供だけに無抵抗で
為す術もないまま泣いて
誰かを責められずには居られなかった
ハンカチに包んで
家に帰ればすぐさま母ちゃんに怒った
ハンカチを広げて、喚きちらして
今思えば、なんて理不尽なのだと思う
父ちゃんが帰ってこれば
少しは落ち着いて
でも、涙は止まらないから
父ちゃんと二人で庭に埋めてあげ
泣き止むまで、ずっと
ずっと座り込んでいたこと
今でも鮮明に覚えている
それ以来生き物を飼わなくなった
今も飼ってはいない
恐れだとか
罪の意識なんて理由は
詭弁なのかもしれない
少なくとも短絡的な思考や
責任感なくしては
自分すら生かす事などできない
と、今更ながら痛感している
(寿命を全うできるのは、素晴らしいことなんだと思う。煙草片手に物事をこなす私はどうなのだろう。きっと責任感も健康の二の字すらも忘れてしまっているのやもしれないね)
私とかめきち
漢字で書くと亀吉
大好きだったゼニガメ
私が子供のころの思い出話
夢でも良いから
てやんでぇ。と、言って欲しかったな