吉野家にて
中原 那由多

昼時をちょうど過ぎようかという時間
決して長くはない行列の最後尾で
ただぼーっと店内を見ている
忙しなく揺れるエプロンと
食べ終わった食器のガチャガチャは
去年のマレーシアを思い出させる


独特なカウンター席では
赤い小山が二つ並んでいた
少数派有利のルールを受け入れても
妥協することに意固地になって
貧乏揺すりをしかけて我慢した


回る人々、回らされる人々
日常会話の席はなく
すれた欲望が腕組みするだけ

はしゃぐ人々、温まる人々
三六〇円から提供されるのは
忘れ去られてしまいそうな家族愛


待ちくたびれることもなく
欠けた部分を埋め合わせるように座席に案内される
さっきまで私がいた入り口では
すでに次の誰かが声を掛け合っていて
高みの見物のように熱いお茶を軽く啜ると
決められた台詞にも少しは色が出るようだ


牛丼、並盛、汁だくで




自由詩 吉野家にて Copyright 中原 那由多 2010-02-01 09:30:32
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