受賞者発表(2)
相田 九龍

 みなさん祭の後は如何お過ごしでしょうか。こんばんは。批評祭主催者の相田九龍です。

 大変時間が空いてしまいましたが、新人賞の発表をしたいと思います。
 いやーかなり迷いました。自分で選考するということをかなり軽く考えていたのですが批評祭が始まってから、そんなわけにはいかない、と気付きました。アホでした。今日まで実はこれが一番の重労働なのではないか、ぐらいまで追い詰められてました。そういう意味で、これを発表してようやく僕の批評祭は終わりになります。

 新人賞の選考にあたっては、何人かの方にコメント・助言をいただきました。本当にありがとうございました。
 
 ではでは、お待たせしました。発表します。
 第4回批評祭、新人賞兼ねる主催者特別賞は・・・・「失われた「鈴子」を求めて」 をご投稿下さった、香瀬さんです!おめでとうございまーす!ぱちぱちぱちー。

[☆新人賞☆] 新しい風を吹き込んだ参加者。主催者特別賞。
       (主催者選考:◆1名◆):図書券3,000分

香瀬さん
■参加作品
 「失われた「鈴子」を求めて」
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=201197

 選考理由です。キーワードを「新しい風を吹き込んだ方」としていまして、個人的にふさわしいだろうと印象を持った方が5人いらっしゃいました。香瀬さん、KETIPAさん、虹村凌さん、ツユサキ君、古月さんです。かなり迷ったのですが、香瀬さんはその中でもとりわけ怪物じみていて圧倒的な力強さが後味に残ったことが決め手でした。
 以下、選考ゲストさんのコメントの中で香瀬さんを推した意見の抜粋です。



* * *

今回は批評そのものの在り方を問うような作品が目立ちましたが、「批評はもっと自由でいい」ということを行動で示した香瀬さんは、新しい風を吹き込んだという意味でもこれ以上なくふさわしいと思います。

* * *

批評の対象作品を消化しきって、まさにそれ自体が作品である、と言えるほどの迫力に、圧倒されました。
今回一番刺激を受けた作品です。

* * *

批評が一つの「詩」として成り立たない理由はない。"詩の"批評という言葉の機微において、
そしてこの第4回批評祭において、批評が一つの「詩」足り得る作品となっていたのは
香瀬氏の作品以外に見受けられなかった。

読めるべきものであれば何であれ、全ては潜在的に「詩」に値するという観点からすれば、
個々の考えを超えたところで、読解可能性の下にあるのは、やはり「詩」そのものであるという
シンプルな事実を再確認させてくれる上で、香瀬氏の詩作品は今回一番の収穫であった。

また現代において絶滅危惧種に指定されている稀有な詩の読み手の一人としても、
一人の詩人、そしてその作品に向きあうという姿勢において、香瀬氏には詩の書き手・読み手として
今一度立ち返り、また顧みるべき真摯さがあった。

これは私自身においても反省すべきことでもあるが、ただ自分の考えを垂れ流し、
それを「批評」というレッテルを貼れば通用すると考えているような書き手にとって、
「批評とは何か」ということを考えさせる意味でも、一線を格す見事な批評となっている。

* * *

「失われた『鈴子』を求めて」香瀬
擬批評文体と擬小説文体とのハーフ(混血児)であるこの批評文は、カテゴリーの縁に位置するものとして特異である。(略)
わたしにとってまったくの未知であった〈文学極道〉の、常連である一条さんという作者を俎上にのせ、そのサイトでの批評やコメントもあわせて引用してみせたりしているのだが、作者はこの批評文の外観さえ素描することもなく、いきなり商品という内容を並べてみせる。まるでテキヤ的、あるいはゲリラ的な手法を貫いており、わたしには、なによりもそのことが衝撃的だった(略)。わたしには衝撃的だったけれども腹立たしくもあった。この腹立たしさは、批評を書く際のルール無視、ルール破りの輩にみえたからだ。既存のものへの反逆・反抗というのは若者の、破天荒な無知者の特権なのかもしれないし、一部の〈文学極道〉に触れることのある、あるいは時々覗いてよく知っている読者なら説明の一切は当然不要だろう。しかしながら、わたしのような未知の読者には戸惑い混乱するばかりで初めまったく入り込めない、理解が及ばない内容にみえた。イントロダクションに、小説的な物語を差し挟んで読者をひきつけておきながら批評文を生成してゆく、このあたりはもしかしたら、批評対象作品の反照を表現していたのかもしれず、巧緻で戦略的なテクニックだと深読みできないこともない。もしそうであるのなら、この批評文は実に巧まれたものだと言っていい。

* * *

 ポイントで2位なのに賞ないのおかしくない?
 作品優秀賞をひとつしか設置してなかったのは相田君のミスでしょー。
 新人賞にもふさわしいんだから香瀬さんで決まりでいいんじゃない?

* * *


 などのコメントが寄せられました。
 香瀬さんには図書券3,000円分を差し上げたいと思います!


 その他の方に寄せられたコメントを以下に掲載します。



* * *

KETIPAさん
 確固たる信念、ブレない筋がありながらも、それを押し付けぬ姿勢、逆に押し付けられるものは受け入れぬ姿勢が良い。作者と読者の間のズレ、違和感、それらのどうしようもないものを分かり易く語っている。悪い言い方なのは百も承知で言うが、この中途半端な立ち位置の現代詩Fには、このような意見がもっと必要だと信じている。

* * *

KETIPAさんは、現代詩そのものに対しても、現代詩というものがおかれている状況に対しても、自分なりの方法論を持って真剣に向き合おうとしている姿勢がとても良かった。これからが楽しみな論者である。

* * *

●ツユサキさん
気取ることなく自然体で(けれど熱意を持って)、作品をレビューする姿勢を見習いたいと思いました。
また、取り上げている作品自体も非常に魅力的で、読んで得した気分になれました。

* * *


「つめたくひかる、1-江國香織『すみれの花の砂糖づけ』」ことこ
 詩集中にそう頻繁に使用されているわけではない、「つめたさ」と「ひんやり」という言葉の使用法に着目して江國詩を読み解こうとした作者の着眼点と、探偵的な追究のプロセスには一読者として納得させられもした。しかし、意地悪く言えばこの批評文は一点突破的な単調さがあるばかりで、当然作品が抱え込んでいる多面性は欠落しており、皮相的だとも言える。さらに作者の、江國を扱った2-「すいかの匂い」や3-「表記」も同一手法で小説を扱っており、わたしがよく知らない江國ワールドを貫きはしているのだろうが串刺し的で、全体を捉える批評にはなりえていなかったように思う。詩と小説といったように間口ばかりを拡げるのではなくて、たとえば他者のディスクールも借りて、詩なり小説をもっと多面的に複層的にとらえる視点で書いた方がよかったんじゃないかと思う。ちょっと薄っぺらに感じた。

* * *




 これらのコメントの他に、石川敬大さん、貝吹明さんを推す声をいただきました。ご協力下さったみなさん、本当にありがとうございました!


 とりあえずこれで、今回の僕の仕事は一区切りです。ご参加いただいたみなさま、読んでいただいたみなさま、本当に本当に、ありがとうございました。今度とも御贔屓によろしくお願いします。
 現代詩フォーラムのみなさま、大変お騒がせしました。

 今回の反省点などは追々散文で書こうと思っています。ではでは。年明け早々、お付き合いさせてしまい申し訳ありませんでした。遅くなりましたが、みなさま、良いお年を。


散文(批評随筆小説等) 受賞者発表(2) Copyright 相田 九龍 2010-02-01 00:33:33
notebook Home 戻る