雨上がり、春を待つ
中原 那由多

白壁の結露が乾く前に
一足先に階段を駆け降りて
鏡の曇りが晴れるよりも早く
下駄箱から逃げ出した
必要なものが少なくなってしまい
机に描かれた落書きもどことなく素っ気ない

悴んでばかりいた私の手は
こんな日に限って温かい


純情さを掲げて歩んできた道は
綺麗事よりも穢らわしく
嘘のほうがよっぽど上品に見える
ずっと憧れていた桃色の果実は
見た目とは裏腹な味をしていて
泣き崩れる以前に腹を壊した


露骨な笑い声を期待しているのは
その他諸々のエキストラ
執拗に投げられた生卵は
自意識過剰な顔つきのまま
グチャリと窓ガラスにこびりつく

未練がましく呼吸をするのは
詩人ではなくて、詐欺師のほうだった


白い煙が消えてなくなり
国道ニ号線がまた近くなる
ふと庭に出てみれば
やはり見慣れた足跡ばかり


も少し遠くで、春を待とうか




自由詩 雨上がり、春を待つ Copyright 中原 那由多 2010-01-30 12:54:42
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