四人の詩人
……とある蛙

神田小川町から靖国通を歩く四人の詩人

一人は青い顔をして健康の大事さを説きぶつぶつ食べ物の名を呟く
一人は赤い顔をして声高に愛を語る
一人は黄色い顔をして金の儲け話を話す
そして、一人は黒い顔をして無言のままゆっくりとビルの狭間に消えてゆきかける。

四人とも自分が世界で一番重要であることを信じて疑わない。

 ーなんて奴らだ!ー

彼らに世間は見えていない。
世間は彼らを見ていない。
靖国通りを歩いても彼らの食い扶持は落ちていない。


青い顔をした詩人は その背に腐った死体を背負って、さらに健康を憂い

黄色い顔をした詩人は その背にひどい口臭の詐欺師の頭蓋骨を乗せ、さらに蓄財とその成果を騙り

赤い顔をした詩人は その背にでっぷりと肥満した蝦蟇を乗せ、さらに愛と自由を興奮した面持ちで喚き散らし

黒い顔をした詩人は その背にすすわたりの群れを乗せ、ぶつぶつと死の恐怖を囁く。

四人は口々に自分の教養と感性を自慢し、

異口同音に


歩道上を歩く顔の無い人々を辟易させている。

 ーつまり俺たちだー

そのまま歩いて行くうちに四人は帰る家を失い
もともと帰る家はないが忘れたのだ。
背負ったものの重みに押し潰されそのまま息絶えた。

彼らの歩いた後
靖国通りの歩道には
雪だるまが等間隔に出現し
雪だるまの並木道

日差しが戻った頃には雪だるまは溶け、
何も痕跡を残さず四人の詩人は亡霊になった

駿河台下交差点に巣くう亡霊は
何十万冊にも上る読まれない知識の残滓を喰らい
溶けかかった砂糖菓子の糖分に
追い立てられて溶かされ、わずかに残った亡霊のカス

四人の詩人のなりの果て


自由詩 四人の詩人 Copyright ……とある蛙 2010-01-29 17:31:55
notebook Home