影のない女
月乃助



とがった影は、みすてられ
切り取る冬の陽を証明する
見上げる円錐のモミの木から
どこまでも つらぬくように
まっすぐに伸びた

疑うこともせず、迷いもせずに
影を作り出し専念するなら
誰もが当たり前のように通り過ぎても
誰も気づかぬふうに歩き去っても
この地上に張り付いたまま
声さえあげずに、ただじっと
だまったまま、

その形を時に
わずらわしそうに変えながら、

影をなくした
もうずっと昔のはなし
ファルコンの言いつけどおり
あたしが影を手にいれなければ、
夫は石になるよ
それが、掟ならしかたがない

あふれるばかりの
冬の陽の中に
影のない女がひとり
誰もが引きずるそれを求めて、
あたしにはないのだから、
売ってくれますか、
それがなくても苦労しないのだったら
望みの幸せと引き換えに

皆、後生大事に足元にへばりつけている
なくしてしまえば、こんなにも軽く歩くことができるのに
気づくことは、ないのかもしれない

モミの木はだんまり
影のないもの達を見つめてる
くっきり自分の影を投げかけては
えらそうに、一本の木でしかないはずのおまえが、
失うことがそんなに恐い
それならば、それを失くしたあたしの愚かさも
気づいているのだろう、

影をなくした時から、歩んできたその道も
ほら、栗鼠が、使いのものがやってきた
少しでも普通の人間に近づこうと
そんなところなのだろうけどね、
仕方がないのさ
夫は、やはり石にならねば
ならないのさ








自由詩 影のない女 Copyright 月乃助 2010-01-29 06:42:44
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