待ち時間まで
真島正人

私ののどはちょっとおかしいのです
私の単純明快な言葉は
突然鈍行列車になってしまうのです
私は私を貫く影に
対抗する手段を持ちません
……ほんとうでしょうか
たぶん嘘ですね
私は、手段を持たないのではないのです
私はたぶん、手段を忘れようとしているのです
忘れようとしていたり、本当に忘れていたり、留意しなかったりすることで
自分を守ろうとしているのです
でも、ちょっと待ってください
私にはよくわかりません(またですが)
私はいったい何を守ろうとしているのでしょう
私は昨日一晩中寝ないでそのことを考えていました
家中をうろついたので
家族にはいやな顔をされました
考えすぎておなかがすいたので冷蔵庫を何度も開けました
好物のチーズかまぼことめかぶを食べました
なんだかむなしい気分になりました
私は水道の蛇口をひねり
出てきた水を飲み
そして、パジャマを脱ぐと裸で布団にもぐりこみました
なんだか懐かしい気分がします
私は中学生の頃、勉強のし過ぎで頭がほてってくると、裸になって寝たものでした
あの頃僕は
英単語を覚えるのに必死でした
それらはほとんど忘れてしまいました
それどころか私は
大学ではフランス語とロシア語を専攻したのに
今はそのどちらも満足に話せないのです
話がずれました
すごくずれました
すいません
私はどこまでしゃべったでしょう
というかいったい何を話していたのでしょうか
よくわかりません
わからないことばかりで
変な気分になるのです
私は今本当は悲しい気分と記したかったのですが、
それは陳腐なような気がしました
だから代わりに変な気分と記したのですが
それもなんだか薄っぺらいのです
どうして言葉なんかでこんな風に悩むのでしょう
悲しいなら悲しいでいいじゃないですか
でも私は悲しいという言葉が好きです
悲しくもないのに
すぐに悲しいと書いてしまう癖があります
悲しい、が解禁されたら私の日記は大変なことになるでしょう
『昨日秋刀魚が出た、悲しい』
『昨日犬が出産した、悲しい』
『昨日パチンコで勝った、悲しい』
悲しいの博物館です
きっとそのうち、こうなってきます
『昨日、悲しいが、悲しいに衝突した』
『悲しいが、悲しいを、悲しいしたので、僕は苦笑いしたが、悲しいは、悲しかったので、かわいがった』
『悲しい肩パット悲しくて悲しい』
こうなってくると日記帳なんてもう終わりです
私はそれを記すことに喜びを感じません
私は本当に悲しくなってしまいます
ところで実は
この文章を記すあいだ
ずっと電車を待っていたのですが、もうすぐ来るのでしょうか
実はここは待合室で、
ドアがちょっとだけ開いているのですごく寒いのです
まだ1月の半ばです
風はものすごく寒く
私はマフラーとコートを併用しています
それにしても地下鉄に乗らずに
上を走る列車にして良かったと思います
私は地下鉄が嫌いです
何はともあれ気分が、暗くなってしまうからなのです
きっと私のこの、のどにも良くないと思うのです


自由詩 待ち時間まで Copyright 真島正人 2010-01-27 04:14:45
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