九月病
本木はじめ
朽ち果てた夜行列車の寝台に
寝転んで星空を見ている
至るところが錆びていて
天井屋根はぬけたまま
よじ登る君はそのまま戻らない
仲間たちもどらない
まるで夜だ
屋根裏部屋で見つけた
線香花火と麦藁帽子だ
土中に埋まった巨大な土管だ
浜辺に座礁したままの廃船
殺された鈴虫のような
鳴らない黒電話だ
九月
しをらしい朝顔が庭先に
お前の明日はどこだい
耳が無いなら
わたしの耳をあげようね
ゴッホに描かれた着物のように
みじめな秋
「遠いどこか」は「あこがれ」と
おんなしだと思ってみたり
こんなにも快適な世界になったのに
僕は未だに
あの山ひとつ越えられぬまま
朽ち果てた夜行列車のなかで
またしても
線路じみた朝を迎える