ノート(わだちうた)
木立 悟






左肩を左壁に押しつけて
くたばってしまえ
打ち寄せて来いと
うたいつづけているのだ


左肩の血で壁に絵を
描いているのだ
猫のように餅のように
鳴いているのだ


わたしには茶の薄墨
呑むための呑むための茶の薄墨なのだ
ひらけば花の火
夜に課す線


分かれては在り
5597日間
雨の音は刺す
雨の音は刺す


口々に
口々になおけだものよ
つながりを胸に引きちぎり
腹に結びゆくけだものよ


蒼よ氷よ氷よ蒼よ
冬にひとこと言いたいのなら
冬の底まで降り来るがいい
そのままの痛みを知るがいい


水に折られる骨の音ひびき
水のまま水を抜け水底に着き
何も無く何も無くすべて在り
空を空に削りつづける


わたしはわたしを赦さない
だからあなたはあなたで知らない
口も鼻も勝手に話す
だから勝手にうたってもいい


おまえよおまえ
つるりとおまえ
かかと肛門 はざまはざま
受けては応え 闇は染み入る


崩波 崩波 
幽霊の地図
おまえが空けた
右側の熱


水底に積もるものを見ている
音をたてる
光とけるたび
音をたてる


千年の洞が
千年の洞を欠くときの
岩の音を聴くがいい
名の無いものの目を射るがいい


そんなにも花がほしいのか
空をつらぬく火が見えないか
雪をかきあつめかきあつめ
鳥の居場所がないほどに積み


崩れても穢れても
通り 歩むものはある
少しだけ腹を夜へ持ち上げ
未だ来ぬものへ未だ来ぬものを晒しつづける






























自由詩 ノート(わだちうた) Copyright 木立 悟 2010-01-20 22:04:49
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