歩めるひと
恋月 ぴの
ちぇっ!
右肩に強い衝撃を感じたと思ったら
見知らぬ男のひとの舌打ちが耳奥にまで突き刺さる
ちぇって言われてもね
いつもと変わらぬおっちょこちょいだから
うっかり階段踏み外して捻挫しているだけなのに
なんて世間は冷たいんだろう
信号変わるやいなや
どっと交差点を渡り切ろうする忙しい人波に乗れず
あれれっどっちの手でつくんだっけ
右足捻挫しているのに左手で松葉杖ついていた
なんだか情けなくてしょうがない
わたしって弱者と言い切るのはおこがましいにしても
こんな身体になって思い出したことがある
小学校生活最後の冬休み
同じクラスにアキちゃんって名前の女の子がいて
まっへっへ!
久しぶりに白く積った校庭ではしゃぐ皆の背中へ叫んでた
誰ひとりとして彼女のこと仲間外れしてなくて
いじわるとかしてた訳じゃないし
もしかすると彼女なりの生きる速さで
自分自身を追い求めていたのかなと思ってしまう
ちぇっ!
わたしを追い抜きざまに今度は若い女のひとが舌打ちした
何がそんなに気に障るのだろう
よっこらしょ!
わたしはわたしなりの速さではじめの一歩を踏み出した