歩めるひと
恋月 ぴの

ちぇっ!

右肩に強い衝撃を感じたと思ったら
見知らぬ男のひとの舌打ちが耳奥にまで突き刺さる

ちぇって言われてもね

いつもと変わらぬおっちょこちょいだから
うっかり階段踏み外して捻挫しているだけなのに

なんて世間は冷たいんだろう

信号変わるやいなや
どっと交差点を渡り切ろうする忙しい人波に乗れず
あれれっどっちの手でつくんだっけ
右足捻挫しているのに左手で松葉杖ついていた

なんだか情けなくてしょうがない
わたしって弱者と言い切るのはおこがましいにしても
こんな身体になって思い出したことがある

小学校生活最後の冬休み
同じクラスにアキちゃんって名前の女の子がいて

まっへっへ!

久しぶりに白く積った校庭ではしゃぐ皆の背中へ叫んでた

誰ひとりとして彼女のこと仲間外れしてなくて
いじわるとかしてた訳じゃないし

もしかすると彼女なりの生きる速さで
自分自身を追い求めていたのかなと思ってしまう

ちぇっ!

わたしを追い抜きざまに今度は若い女のひとが舌打ちした

何がそんなに気に障るのだろう

よっこらしょ!

わたしはわたしなりの速さではじめの一歩を踏み出した



自由詩 歩めるひと Copyright 恋月 ぴの 2010-01-19 19:38:34
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