フクロウと北極星
楽恵

眠るほど深い北の森に
大きな灰色のふさふさした梟が一匹暮らしています
夜になると梟の頭上には、北極星が輝きます
北極星は夜空に広がる星々の王様です
実はこの森の梟は
北極星が北の中天から動かないように見張る役目を神様から命じられていました
北極星は星の王様ですから
夜空の中天で動かずじっとしていなければなりません
そうでなければ、他の星たちが星座を組んだり
旅人が航海するとき目印をなくして大変だからです
けれど北極星は自分ひとりだけが同じ所にいることを
いつも不満に思っていました
自分も広い夜空のあちこちを旅したり
仲間といろんな場所で星座を組んだりしたかったからです
北極星は自由に憧れていました
北極星は梟に呼びかけました
やあ君、そろそろ僕を自由にしてくれないか
君は僕のたったひとりの親友だ、自由に憧れる僕の気持ちが君には分かるだろ
梟は北極星の寂しさを知っていました
梟もまた北極星と同じように独りきり
深い森の奥の同じ場所で長年暮らしていたからです
梟は北極星が可哀想に思いました
けれど神様からの命令を破るわけにはいきません
それは無理な相談だよ北極星くん
君は君の役割がどんなに大切なものかわかっちゃいない
君が他の星たちや旅人からどんなに必要とされていることか
君はぜんぜん理解していないんだ
梟は説得しようとしました
ですが北極星は諦めませんでした
毎晩のように
自由にしてくれるよう梟にお願いしました
梟はとうとう北極星に根負けしました
わかったよ、こぐま座のみんなと神様には僕がなんとか言い訳しておくから
君は好きなところへ自由に旅しておいでよ
こう言って北極星を送り出しました
北極星はおおよろこびで出かけていきました


北極星に去られたあと、梟はすこし寂しく思いました
ですが梟は北極星のことが大好きでしたので
北極星が幸せなら彼もまた幸せでした


自由を手にした北極星は東から西へと夜空をはるばる旅しました
あちこちで色々なものを見聞きし、たくさんの経験をして
とても心の豊かな星になりました
そして旅のあまりの楽しさに北の森の梟のことはすっかり忘れてしまいました
やがて北極星は旅を終えて北の森に帰ってきました
梟に旅の思い出話をしてあげよう
北極星は梟を探しました
ですが同じ場所に梟はいませんでした
北極星は近くにミミズクを見つけ、梟がどこにいるか尋ねました
ミミズクは北極星に答えました
知らなかったのかい?
あの梟は君を自由にするため神様に命を捧げて新しい北極星になったんだ
君が空の旅を安全快適にして帰ってこれたのは
あの梟が君の身代わりに北極星になったからさ
北極星は頭上を見上げました
北の中天に動かない星がひとつ輝いていました
北極星はようやく気がつきました
自分が夜空を楽しく旅してこれたのは梟のおかげだったことを
それからしばらく
かつての北極星は新しい北極星じっと見つめていました
かつての北極星には梟がいましたが
新しい北極星にはもう誰もいませんでした
ああ僕はなんてことをしてしまったんだろう
僕は君をひとりぼっちにしてしまった
君は僕の孤独を理解してくれるたった一人の親友だったのに
僕は自由を得るため
世界でたったひとりだけの
寂しさを分かちあえる本当の友だちをなくしてしまったんだ


夜明け前、流れ星がひとつ空に消えました
その星がかつて北極星と呼ばれた星の王様であったことに
気づいたものはありませんでした


自由詩 フクロウと北極星 Copyright 楽恵 2010-01-18 16:42:43
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