金木犀の香る頃
鵜飼千代子
なにより色の付きやすいあなたが
僕より先に 人ごみの中に入って行く
すべては僕の仕業で
そしてあなたのせいにした
あなたは 拒絶することを知らない
それは 罪だ
社会になど 出したくはなかった
小春日和に縁側で
ただ傍にいるだけでほころぶ
あなたが
この先 ずっと
欲しかったのだ
ねえ
金木犀が香ってきたよ
あなたは 秋が来たことに
気付いていますか
がさがさに干からびて
季節すら感じられないところに
いま いるのではないですか
小さなケース取り出して
金色の花弁を
今度会ったとき
初秋の訪れ伝える為に
あの日も今日も
変わりのない気持ち
伝える為に
やっと来た電話、
「金木犀が咲いたね」
「うん、すっごくいい匂い
でも銀杏がクサイ
銀杏を拾って バケツに入れてね
水に漬けてあるから 窓を開けると
変な臭い」
変わらないあなたがいて
苦笑いしながら
手のひらに 金の星をあけてみる
ねえ
伸びていこうね
あなたが変わりなくあなたである限り
どこにいても 僕は味方だ
腐るなよ 僻むなよ 妬むなよ
みんなばっかりすごく見えるだなんて
泣いてくれるなよ
いつも元気で無邪気で
わかんなぁい が口癖のあなた
あなたさえいれば
この情報化社会の先端で
行き詰まったとしても
絡まった糸玉を
ほぐしてやれる気がしていたのだ
先いそいだ僕が
あなたの何かを確実に壊し
変わりなく無邪気なあなたは
もう僕を信じない
今年も
金木犀が香ってきたよ
いまも季節を感じていますか
秋の高い空にひとみ投げる
あなたが
いま ここに
いるようで
1997.09.03.
改稿 1998.08.13. 2002.01.14
改訂 2002.10.27
初出 NIFTY SERVE FCVERSE
詩集 ブルーウォーター 所収