おんな椿
あ。
ひと気もまばらな公園で
湿った土の上に落ちた椿の花は
どこか心細げにこちらを見ていた
ささくれたこの景色には眩しすぎるので
その紅色を熱でとろとろに溶かして
指ですくいとりたいと思っていた
わたしの絵の具箱はいつもぐちゃぐちゃで
どの色も変な形にひしゃげていて
それなのに紅色だけは綺麗なままに保たれていた
鮮やかで無邪気な色気があって
祇園の街で見かける舞妓の唇のようで
彼女の美しくしなやかな動作を思い出すと
子どもながらに汚してはいけないと感じ
使うことが少しためらわれる色だった
おんなになったばかりの頃は
紅色ばかりをまとっていた
唇に艶やかな花びらを乗せてみても
甘くて良い香りを漂わせてみても
蜜は吸われることなく熟れてゆくばかり
気まぐれなミツバチがふらりと蜜を吸いに来て
そのまま居ついてしまったのは
色のさかりを過ぎて随分たった頃
立ち止まるわたしの目の前で椿は揺れる
冬風にもひるむことなく益々映える紅色は
顎をあげた美しいひとりのおんなだった
おとこに肩をたたかれて振り返ったわたしもまた
恐らくおんなのかおをしていた