首輪の外れるとき
りょう

 ―離して

耳のツンと立った黒い子犬は
首に腕が回されるたび吠えた

 ―僕がいると
  余計に泣かしてしまうから

犬小屋が空っぽになるのを恐れ
子犬の声まで鎖をかけられていた
それでも涙のあとが消せるならと
飼い主の目元をなめた

布の首輪が擦り切れるほど抱きしめられ
光る確かな皮の首輪に変わっても
子犬の抜け毛が飼い主の胸に
たまり のしかかるように
首に回した腕が
喉に食い込むようになった

 ―息をさせて

舌は目元から遠く空回りし
綿菓子が小さくなるように
前足の力も抜けていった

 ―もう届かない

子犬は首輪をすべらせ
鎖をかいくぐった
「私はどうすればいいの」
という声を後ろに流し

 ―自分の寂しさは
  自分で乗り越えて

草陰に入り
きた道を振り返ってから
肉球がやぶけていることに
気づいた

僕は
誰の孤独も癒せない
向き合う人に
寄り添うだけ
子犬は声を殺しながら悟った

やがて思い出を確かめるように
抜け毛が飼い主に届くようになった

 ―元気ですか
  僕は元気です
  ごめんなさい
  どうか
  笑顔でくしゃみしてますように


自由詩 首輪の外れるとき Copyright りょう 2010-01-12 11:32:05
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