【批評祭参加作品】 それは水の話ではなく
たりぽん(大理 奔)

ロスト / 水無月一也
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 忙しいということはストレスがたまることばかりではありません。時には憶えておきたくない事柄を体の片隅に追いやってくれます。くしゃくしゃにしたレシートをベットの下に追いやり、過去の負債を目の前から消し去ってくれるのです。そう、しかもいつか見つけることができるように。久しぶりに水無月一也さんの投稿作を読んで、また私は忙しかったのだと気付かされました。ロスト、失われていたと思い込まされていた気持ちが揺り起こされたのです。

 雪が消え去るときに奪っていく体温。でも確かに掴み取ろうとしていたものがそこにあって、それは掴み取ったが故に消えていったのです。まさにそれは時間だったのかも知れません。本人だけが納得してうなずいた、そんな独りよがりの。

 雪がつもるためには、それが溶けてしまわない気温が必要です。「わたし時がふりつもる」ためにはいったいどんな気温が必要なのでしょうか。

必ずめぐる冬の日に
この身をぬくめるすべとして
わたし、
すべてを
失くしてゆくのでしょう
 
 生き続けるために、いきていくためのぬくもりのために失うものがある。それに気付いたときの孤独感を私は痛みとともに感じます。水も雪も元は同じものなのに、同じ世界では長くは一緒にいられない。でもこの言葉たちは雪のことを語ろうとします。作者に「冷たさ」がもたらした暖かさ。そして「孤独」をもたらす暖かさ。僕たちは生きているということだけで、どんなに多くのものを失ってしまうのでしょう。

 記憶の中、雪の冷たさに暖められながら永遠に失っていくこと。そんな孤独の中に閉じこもらないことを私は祈ってやみません。季節は失われません。必ず裏切ることなく巡ってくると微笑みの中で信じて欲しい。そんなかすかな希望のぬくもりが、また指先で雪をとかすのでしょう。それでも、それが生きることなのだと。




散文(批評随筆小説等) 【批評祭参加作品】 それは水の話ではなく Copyright たりぽん(大理 奔) 2010-01-12 01:05:34
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第4回批評祭参加作品