うそつき
靜ト

うそつきなこどもだった




帰り道


鍵っ子だったわたしは
ひとりっきりの家に帰るのが
さみしくて、さみしくて


帰ろうとするMをひきとめようと
こう言ったのだった


「あのね、秘密おしえたげる、あたしとMだけだよ、他の子には言わないでね、あたしたち親友の特別な秘密だから」


息せき切ってそこまで言うと、Mはちょっと首をかしげてから、
いいよ
と微笑むのだった


「あのね、わたし、じつは人間じゃないの、本当はね、宇宙からきたの」


Mはきょとんとしてから
ふーん
と言った

わたしは慌てて付け足した

「だから、だからね、明日帰らなきゃいけないの、もう、会えないかもしれない、二度と」


Mはまた、
ふーん
といった


わたしは後悔と恥ずかしさで泣きそうになりながら


「だから、だから、わたしが帰るまで、一緒にいて」


と言った
なぜかわからない悲しみが溢れてこぼれ出ていた


Mは今度は
ふーん
とは言わなかった

そのかわり、困ったように微笑んで
いいよ
と言うのだった




わたしたちは暗くなるまでずっとそこにいた

冬の枯れた畑の近くの静かな団地に咲く
椿の蕾を剥きながら




もう3回目の、同じ嘘だった




うそつきなこどもだったわたしは
正直な大人になった

もうあんなふうに誰かを引き止めることはなくなったけれど

もうあんなふうに孤独を遠ざけるすべも、なくなってしまった


自由詩 うそつき Copyright 靜ト 2010-01-09 20:02:16
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