うそつき
靜ト
うそつきなこどもだった
帰り道
鍵っ子だったわたしは
ひとりっきりの家に帰るのが
さみしくて、さみしくて
帰ろうとするMをひきとめようと
こう言ったのだった
「あのね、秘密おしえたげる、あたしとMだけだよ、他の子には言わないでね、あたしたち親友の特別な秘密だから」
息せき切ってそこまで言うと、Mはちょっと首をかしげてから、
いいよ
と微笑むのだった
「あのね、わたし、じつは人間じゃないの、本当はね、宇宙からきたの」
Mはきょとんとしてから
ふーん
と言った
わたしは慌てて付け足した
「だから、だからね、明日帰らなきゃいけないの、もう、会えないかもしれない、二度と」
Mはまた、
ふーん
といった
わたしは後悔と恥ずかしさで泣きそうになりながら
「だから、だから、わたしが帰るまで、一緒にいて」
と言った
なぜかわからない悲しみが溢れてこぼれ出ていた
Mは今度は
ふーん
とは言わなかった
そのかわり、困ったように微笑んで
いいよ
と言うのだった
わたしたちは暗くなるまでずっとそこにいた
冬の枯れた畑の近くの静かな団地に咲く
椿の蕾を剥きながら
もう3回目の、同じ嘘だった
うそつきなこどもだったわたしは
正直な大人になった
もうあんなふうに誰かを引き止めることはなくなったけれど
もうあんなふうに孤独を遠ざけるすべも、なくなってしまった