月と入れ替わる。
真島正人

(嘘っぱちさ)
どうしてこんなにも世界そのものが
深刻さを
どこかに放り投げてしまったのか
深刻な問題はもっと
根深く地中に張り巡らされて育っている
というのに
これはなにかの策略か
それとも
ありきたりの事実なのだろうか、時の
流れの最中の
植物の球根が脹らむように
今僕の胸の奥深いところで不安の心が
脹らんでくる
厚みをおびて
立体になって…
音楽が流れる
朝の日焼けの空に
まだ眠りたい町の向こう側に
光が差して
数え切れない幸福な思い出が
にわかな郷愁をおびて
流れ込んでくる
その様子はまるで川だ
誰にもせき止められない、僕以外には自分の心だからそして
僕はそのせき止める心を
放棄しつつある

やってしまおう
俺たちは
やるしかないんだ…
(カフェの午後のセリフ)

雪が
降りしきると
視界は乱れるが
心が落ち着いてくる
雪は花のように降るが
花とは違う
雪は溶ける
雪はいなくなる
花も枯れるが
雪はもっと根本が違う
雪は思い出を拭う
消し去る
それとも思いでそのものが、
いいや
時間の流れが雪だろうか
拭う、拭うだが
拭いきれないのは
自らの視点だ個々の
これだけは
確固としてそれぞれに実在する
舞台劇を眺めるときに我々が
ある一人の俳優に集中をできるように
全体の片隅としても

電話線には
潜んでいる
ある有機物体が…
(祖母の妄想)

月と入れ替わるすべは難しい
だが
いろいろな月が昇る
優しいアルトサックスのような
ぐにゃぐにゃとした月を
見たことがある
僕はあれと入れ替わる
体を全部変えて
入れ替わる
入れ替わる
入れ物になる
入れ物になる

電話がかかってくる
(また崩れてしまう)


自由詩 月と入れ替わる。 Copyright 真島正人 2010-01-09 01:42:05
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