空になった女の子
吉岡ペペロ

これはロシアのお話です

ワーニャという女の子が

冬の森を家へといそいでいました

こんなところに?

凍えそうな恰好をしたおばあさんが

娘さん、寒くてつらいんだよ、

ワーニャは着ていた服をにまい

おばあさんにかけてあげました

すこし寒いわ、いそがなきゃ、

森のなかは光がなんぼんかさしているだけでした

まただわ、だれかしら?

娘さん、凍えそうだよ、服を、

おじいさんがよわよわしい声でいいました

ワーニャはまたじぶんの服をあげてしまいました

ああ寒いわ、

ワーニャは夏の子供のような恰好になって

冬の森を家へといそぎました

え?

またおじいさんがたおれていました

おじいちゃん、だいじょうぶ?

おじいさんは返事のかわりに

ちからのないしろい息をはきました

ワーニャは夏の海辺の恰好で

冬の森を家へといそぐことになってしまいました

そしてとうとう女の子は

凍えてつかれてたおれてしまいました



女の子はふしぎな光につつまれていました

あ、なんだかあったかい、おうちのベッドみたい、

そこには神さまと名のる男の子がたっていました

ワーニャ、きみはじぶんの寒さもほうって、ひとをたすけた、きみをたすけない神さまなんてどこにいると思う?

どうなのかしら?



ワーニャが目をさますと

あたたかなベッドのうえでした

おかあさんがかんかんに怒っています

帰ってきたんならただいまぐらい言えるでしょう、



女の子はおとなになっていました

結婚をしてこどもたちにかこまれていました

そのこどもたちも結婚して

まごたちにもかこまれていました

百さいの誕生日、ワーニャのだんなさんも

百さいの誕生日のその日のあさ

ふたりはねむったまま天に召されていました



ワーニャとだんなさんは

ふしぎな光につつまれていました

あ、なんだかあったかい、おうちのベッドみたい、

おばあさんのワーニャは女の子になっていました

だんなさんもみるみるうちに若がえっていきました

若がえっただんなさんを見て

女の子はびっくりしました

そこには神さまと名のる男の子がたっていたのです

あなた、

うん、

うれしいわ、

いこうか、



女の子と男の子の神さまは

いまも空から私たちをみまもってくれています


自由詩 空になった女の子 Copyright 吉岡ペペロ 2010-01-05 17:06:42
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