こいするおんがく・ほしのついらく
蠍星

指に触れてはいけない
頬を赤らめてはいけない
このままでは溶け込んでしまう
あなたに
うつむいていても爪先が見えるから
きっとあなたは夢にも現れるわ

獏のような灰色の空ね
あなたの手に音楽がよく似合うから
めぐる電線は五線譜に見えるわ
わたし、あなたのフルートになりたい
誰よりもあまく鳴いてみせるわ
くちづけをしてほしい

きっかけはなんでもよかった
ほんの少しの摩擦熱がドミノ倒しの速度で
からだのすみまで沸騰させてしまって
夜にわたしはシーラカンス
夜にわたしは月の兎
あおい眼をして
闇にうかんで、光をはなって

声をのぞんではいけない
歌をのぞんではいけない
あなたは耳鳴りに変わって
わたしをなやますわ
傷をつくってはいけない
なみだを流してはいけない
わたしの痛みが溶け出して
すべてあなたに注いでしまうわ

見ないふりをしてはいけない
忘れたふりをしてはいけない
さかさまに落ちてゆくわたしを
指に触れてはいけない
頬を赤らめてはいけない
このままでは溶け込んでしまう
あなたに
あなたに落ちてゆく



自由詩 こいするおんがく・ほしのついらく Copyright 蠍星 2009-12-29 01:00:01
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