あのひと
瀬崎 虎彦

いい詩をお書きになる あのひと
言葉はなんでもなくて、抽象性が無担保でまかり通る
それなのにそのひとの選ぶことばのならびをみて
とってもうれしいきもちになってしまう

このひとは本当はすごく悪い人で
夜毎眠っている野良猫たちの耳をガムテープで
塞いでいるのかもしれないが
そうだったとしてもそのひとの詩はやっぱりいい

ボートが波にさらわれて
向こう岸にたどり着けなくなったら
その時に思い出すであろう詩を

彼岸でじっと日傘を手に
待っていた誰かがいたことだけを
思い出すであろう詩を書く あのひと


自由詩 あのひと Copyright 瀬崎 虎彦 2009-12-28 16:42:56
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