冬の海で
瀬崎 虎彦

かつて少女であったものの断片
ある切れ端
突端から眺める切れ端
破片
かつて少女であったそれ
その部分
少女の一部分
白い影を波間に
少女らしいたおやかな
少女らしい生臭い
少女らしい線の
ため息
少女という女
女の切れ端
女であることの
代理性をはらんだ
少女と呼ばれるものの断片
突端から見上げる少女的なものの
少女的な軽さ
少女的な女のにおい
少女的な少女
女的な少女
少女
の断片が
海に降っている

少女の
断片が
人のいない
冬の海に
降って来る

さびしい声で啼く鳥たちも
季節に追われて
姿を消した

季節の断片であるという
少女の断片の
少女的な
軽さ
女のような
ただ中心に塵芥を保持する
水の結晶

結晶する少女らしさ
少女的な少女らしさ
見るものを不安にする
降りおりる不安
耳にする
融解の不安
解けては乱雑に
融けてはあえかに
耳にする
見るものを不安にする
少女の断片
少女という断片
の中にある
切れ端のような
反映の涙
波の上に
見取られることなく
落ちていく
涙涙

極限の海にも
同じように降る断片
切れ端 隆起する
突端から見上げて
汚いもののように降り積もる
降り積もらずに水に消えていく
少女の断片


自由詩 冬の海で Copyright 瀬崎 虎彦 2009-12-26 23:08:38
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