連詩「四季」 竹中えん 夏嶋真子
夏嶋 真子
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花が散るころにわたしは女でした。女になってしまい、
鉄鉢の中の百枚の花びらが
蝶のように羽ばたき、遠ざかるのを眺めた
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花びらのひとひらを虫ピンで留めた音が肺に響いた。
ひらひら、(蝶、が泣き出したのね 、)
降り止まぬ雨の匂いを女の標本として嗅ぐ。
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空が燃える頃、海の匂いを嗅いだ。
だれかが泣きながらそれは涸れたといい、わたしは信じず
海のほうへと歩いた。花びらで出来た蝶を携えて
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永い間、眠ったままの蝶、その亡骸を貝殻に封じると
やがて蛹になる。夕凪を通り過ぎた浜辺で、
蛹と波の結び目から赤星が生まれ落ちた。
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星はなにを伝えるだろう。
縷縷と絶望のみをひびかせて、蛹の囁きがやまない。
風は幾たびも滅び、そしてまた生まれ、善意を駆逐する。
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絶望を歌いつくしても、羽化を望んだ蛹は
真っ白な花をつける。
月の輪郭(にそって(咲く花びらであのひとの)唇)をふさぎ眠る。
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あのひとは自由でしょうか。そんな思想ばかりが降り
世界中が紅く染まるなか ねえ白いのはわたしね。
蝶になりたかった。どこまでも飛びたい
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叶えられない願いの全てに初雪が降る
わたしは雪の抑揚をまねて口ずさむ
白に白、重ねた夜の陰影にあのひとの影がまぎれこんでいる。
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心が火傷して疼いてしまうのです。
まっしろな世界中の(、そしてわたしの掌へ降るこの、)蝶を
抱きしめよう。さびさびとして静かなこの枯野で
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わたしの火が、蝶たちに銀の烙印を押すと
枯野の炎は凍りつき時計と磁石は役目を失う。
(あついのです、)星鳥が鳴きわたしは小さく絶命する。
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焦土(とは恍惚の謂いである(、しにたがり、の恍惚))に
春は ぷすぷすと芽吹いてきたの。砂糖壺
を、開けば砂糖菓子の蝶。たちがほろほろと崩れていく
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柔らかな光に朽ちたわたしがほどけてゆく。わたしに回帰する、
わたしたちが花という花へと結ばれて咲いていくの、
((蝶の輪廻、を知る)春、)わたしは女を歩きはじめた。
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