長風呂
ゆえづ
のぼせたわけじゃないんだよ
つい沸かしすぎた湯が
総毛立って縮こまる私を
ひとときたりと忘れぬよう
きつく抱いて締め上げるから
ほんの少し恥ずかしかっただけ
少女の頃に見たきり
こんなにも紅潮する自分の頬を
私はすっかり忘れてしまっていた
それがどこか切なかっただけ
ずんずん ずん
耳の奥が脈打ち
私はただ
あの人の名を
うわごとのように呟いている
それを見兼ねてか
つめたい水滴が
風呂場の天井からぽたりと落ち
軽妙な音を立てて私の額を打った
なかなか
もひとつ待って 待ってやろう