長風呂
ゆえづ


のぼせたわけじゃないんだよ

つい沸かしすぎた湯が
総毛立って縮こまる私を
ひとときたりと忘れぬよう
きつく抱いて締め上げるから
ほんの少し恥ずかしかっただけ

少女の頃に見たきり
こんなにも紅潮する自分の頬を
私はすっかり忘れてしまっていた
それがどこか切なかっただけ


ずんずん ずん

耳の奥が脈打ち
私はただ
あの人の名を
うわごとのように呟いている
それを見兼ねてか
つめたい水滴が
風呂場の天井からぽたりと落ち
軽妙な音を立てて私の額を打った


なかなか

もひとつ待って 待ってやろう


自由詩 長風呂 Copyright ゆえづ 2009-12-23 19:32:21
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