埼玉出張記(2)
相田 九龍
21日。東京に住んでいる姉と待ち合わせをして東京見物をすることにした。
銀座で待ち合わせをして歌舞伎を見るのに都合が良いため是非観ようと思い立った。しかし劇場前の係員さんに一時間半待ちだと聞いて姉と相談し、立ち見のために出来ている長い長い列を後にした。歌舞伎人気、恐るべし。
その代わり、タランティーノ監督の「イングロリアス・バスターズ」を前から観たいと思っていたので映画好きの姉と観ることにした。最近よく映画を観るのだがタランティーノ監督作品は初だったので、その凄まじいグロ描写に驚いた。姉が言うには今回特にグロいそうだ。
第二次世界大戦中、ブラピ率いるユダヤ人で構成される特殊部隊がナチ狩りを称して殺した軍人の頭の皮を剥いだりして行くのだが、そのリアルさは筆舌に尽くしがたい。グロに耐性がない方にはお薦め出来ないが、私の感想としてはただグロいだけではなく独特の爽快感があった。
大衆映画には大抵社会的なメッセージが含まれているものだが、タランティーノはかなり個人的な感情をこの映画に込めていて、それが痛快だった。そういう映画作り、作品作りもあるんだな、と思った。
22日。
5年前に人生で初めてオフで会った詩人さんと池袋で再会し、秩父にある「ポエトリーカフェ 武甲書店」に向かった。電車の中でポーランドにあるアウシュビッツ収容所を彼女が見学してきた話や、彼女が専攻している社会学について等、色々話を聞いた。アウシュビッツ収容所の話を聞いて、それが記録しているナチの罪悪は誰にとっても同じ事実だが、それを自分の目で見て感じて行うそれぞれの表現の中のひとつとして、タランティーノも悪くないと思った。
彼女の話す社会学からの視点は興味深いものがあり、どれだけ一生懸命やってても理系によく馬鹿にされると嘆くのを聞いて、文系も捨てたもんじゃねえんだぞ!という気持ちになった。結果が分かり易いものだけで社会は成り立っているんじゃない!などと文系談義に花を咲かせる二人を乗せて、時速60kmで電車は進む。
秩父に着き電車を降りると、空気が澄んでいてとても気持ちが良かった。人口密度も全く違う。こっちに来て山手線や東京メトロを段々乗りこなせるようになってきたけど、人の多いところに長くいると「その人を知らない」こと、「目の前にいる人と関われない」ことが知らないうちにストレスになっているんだな、と思った。空気が汚いとか東京にいて特別感じなかったけど、比べるとやっぱり全然違うんだろう。
やはり東京には住めないなとしみじみ思ったら、なんだか笑えてきた。山が綺麗だ。
駅構内の趣ある仲見世通りを抜けて、少し道に迷ったが「ポエトリーカフェ 武甲書店」に無事到着。
こちらを経営されているのは現代詩フォーラムでとても素晴らしい詩を載せられている落合朱美さんとその旦那さんのBJだいちさんご夫妻。
落合朱美さんは常にニコニコしてとてもほんわかした雰囲気の方で、作品に潜む感性の鋭さがこの笑顔の裏にあるんだ、と思うと不思議な気持ちになった。BJだいちさんはネットではあまりお名前を見ないが、朗読などもされていて「カフェのマスター」って雰囲気のイカした格好いい方だった。
ハンバーグ定食をいただきながら、沢山の詩集や詩誌を拝見させていただいた。財布に限りがあるため残念ながら買えないものが沢山あったが、今日しか買えないであろうたくさんの本の中から本棚の肥やしにならないものを出来る限り選別し、購入した。余談だが、私はネットで物を買うのがなんだかとても苦手だ。
とりあえず買った中で主要なもの、詩誌「狼」、光富郁也さんの詩集『バード・シリーズ』、奥主さんの詩集『日本はいま戦争をしている』、IP プロジェクトなどなど。奥主さんの詩集は以前に読まずにタイトルだけ取り上げて批判的な意見を書いてしまった経緯があるので、批評祭に間に合わなくても現代詩フォーラムで感想を書かせていただきたいと思っている。
詩誌「狼」は「反射熱」と並んで私がとても注目している詩誌で、光富郁也さんが編集発行されている。ネットで活動されている方なら大抵名前くらい目にしたことのある、力のある文章を書ける詩人さんが集まっているので、興味のある方は是非読んでみると良いと思う。10周年を迎えられ、「狼」から「狼+(プラス)」という誌名に変わったそうだ。
食後に美味しい手作りケーキをいただいて、武甲書店を後にした。
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自衛隊の研修で埼玉に出張しているのに、詩のことばっかり考えている。
本業とどっちが「ついで」なのか、という疑問がうずまく中(笑)、明日和歌山に戻ります。和歌山に戻ったら、年明けの批評祭が待っている。これから少しばかり五月蝿くなりますが、どうかご容赦下さい。
(批評祭の期間は休暇をもとに設定しているので、国防のことはどうぞご心配なさらずに!)
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私は活動家を名乗っているのだが、やっぱりやめられないな、と帰りの電車の中で考えていた。詩学で読んだ文月悠光さんのインタビューでも、「インターネット時評」でのダーザインさんのコメントでもあったように、詩に関わって何がいいかって素晴らしい出会いがあることなんだすよ。
なんで批評祭するんか、ってこの期間中沢山聞かれましたけどね、やらなかったらあなたと会ってその会話すること自体、生まれなかったと思うと、やってて良かったな、と思うんだすよ。
幸せだな〜、また会いたいな〜、まだ会ってない方にも会ってみたいな〜、と思うのですよ。もう人生でしばらく関東に訪れる予定がなさそうなのに強く強く思うわけですよ。
なのでみなさん、健康にはくれぐれも、お気をつけて。5年後でも10年後でも20年後でもいいので、是非また、お会いしましょう。
会って下さったみなさん。本当に本当に、ありがとうございました。