あるカウンセリングの一場面
りょう

 …先生 私は本当に分からないんです
  今まで私は何をしてきたのか
  何であんなことをしたのか(泣く)

この人は楽器屋の主人で
まず店を持ったときの話をした

 …手作りの木造のような店のドアには
  やはり 開けたときに
      カランカランと鳴るような
      そんな鈴がほしいと思って
      それだけは誰にも手を借りず
      自分で取り付けました

続いて
初めてお客さんが入ったときのこと
お店をたたもうと思ったときのことを話し
本題に入った

 …その日は何でもない日だったんです
  カランカランと鳴ったら
  汗がかびたような臭いがして
  振り向いたら
  服が穴だらけの青年が立っていました
  一番安いヴァイオリンをほしいと
  言ってきました
  とにかく出ていってほしかったんです
  知り合いの楽器屋が店を閉じたときに
  置いていったススけたヴァイオリンを
  青年にくれてやって
  店から追い出しました
  すると急に陽が差したので窓を見ると
  いつもはうるさい小鳥どもが
  食べカスの実を
  地面にまき始めていたんです
  もう青年の姿はなくて

 …私は追い出した
  ヴァイオリンそのものを
  心から愛する青年を
  私は追い出した(泣く)

この様子からすると
このカウンセリングは長引くだろう
あまりにもつらい過去に
触れるかもしれない
しかしこの主人は
本当の喜びをきっと見つける

途中であるが
ここで私はこの手記を終わりにする
まだ途中であるからだ


自由詩 あるカウンセリングの一場面 Copyright りょう 2009-12-22 11:37:46
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