たとえどんなに今この瞬間が
あらら

たとえどんなに今この瞬間が
僕たちの心をとらえて離さないのだとしても
この次の瞬間には
僕たちのあいだのこのできごとも
胸いっぱいの気持ちも
何もかもすべて
世界中至るところどこを探しても
見当たらなくなってしまうのに違いはなく
それは美しい音楽が
静けさの中へ
吸い込まれるようにして消えゆくのと同じように
僕たちの記憶の中に残されるだけで
そしてやがてはその記憶そのものも失われ
いつかは君にも
この世界そのものへも
さようならということに
はじめから決まっているのだというのに
それでも今は
身も心も奪われてならないのだというのなら
この瞬間のために
僕たちのすべてを確かめよう
心の片隅に残っている旋律を
ポツリポツリと鍵盤をつま弾きながら
一音ずつ記憶から探り出し
照らし合わそうとするように
世界中のどの辞書にもどの本にも載っていない
そのひと言を絞り出すようにして
この気持ちを伝え合おう
何度でもここに戻ってきて
今この瞬間のために
二人でそれを繰り返そう
僕たちは今まさにその通りで
その通りであったことを
それは確かにそこに在ったのだと
何度でもこうして
何度でも確かめ合おう
今この瞬間
初めて人の言葉になったかのようにしか思えない
そのひと言を囁き合いながら


自由詩 たとえどんなに今この瞬間が Copyright あらら 2009-12-14 00:06:51
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