おいかけっこ
なかがわひろか

「生まれ変わったら
 元気な体で生まれるからね」
あなたは最後の最後までそんなことを言って
私の心を最後まで離さないようにする
私はきっとあなたが死んでも
毎日のように病院に通いつめて
どれがあなただろうと思うのだろう
そのために免許を取って
毎日のように赤ちゃんを取り上げようとするのだろう

はぁはぁと赤く息を吐くあなたを見て
どうしても欲情してしまう私は
やはりどこか狂っているのか
「ああ、もう目の前だよ
 ついそこまで来ているよ」
あなたはそう言って
にこやかに私にそのときを知らせる
私は必死にあなたの目の前を手でかき乱すが
無常にも宙を泳ぐばかり

私はたくさんの時計を買ってきて
部屋中に時間を狂わせて置く
時が勘違いして
進めてしまうのを止めてしまうようにと
もしかしたら時間を戻してしまうようにと
あなたは笑って
私の作業を眺めて
「君は本当に面白いなあ」と言う
私が必死な姿を見て
あなたは少し声を上げて笑う
また一つ体力を使って
目の前の死に手をかける

振りほどこうとしても
「僕はこっちと仲良くするんだ」
そう言って
私の前で死と強く手を握り合う
こんなときまでもあなたは
平気に私以外のものと親しく触れ合うのだ
それに私がどれだけ嫉妬しようとも
私には何も手を出さないあなたは
悪気を感じるでもなく
身を深く絡ませるのだ

やがてあなたは私がここにいるにも関わらず
恍惚に似た顔をして
そちら側に行くのだ
私は部屋のどこかにいる死を捕まえようと
部屋中をかきむしるのだ

(「おいかけっこ」)


自由詩 おいかけっこ Copyright なかがわひろか 2009-12-13 23:12:48
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