妻の姿の好ましきかな
生田 稔
窓越しに机に座り学びいる人の姿の好もしきかな
人にとり妻は親しきものにして親子に勝るものにありせば
淡き陽のさんさんとさす朝の路姉妹の車ゆるゆると出ず
朝になす家事のほとんど終わりヤナーチェク響く静かなる部屋
顧みば十年前わが人生の戻り路をば歩みはじめり
妻ととも休日は遅く起き出でて子にゆっくりとメイル打つなり
陽のあたる妻の花壇に向きあいて日光浴に午前十一時
妻は居ぬ今日の独りのわが身には神と書物と花が咲きおり
やわらかき陽の光浴び晩秋の今日の一日は幸せなりき
妻の車は坂を上りてキミチャーンと心の中で呼びかけり
今日一日妻の留守を預かりてなすことは学問語学を学ぶ
タレガのダンサモーラを弾くギター横から聴きつ歌をつくりき
独りしてシューベルト聴きつ母のこと思いうかべり霜月の朝
世界は広し生きてゆく希望は湧きぬふと母の声きこえてくる
霜月の朝咲きいでし朝顔の青き色には思い出うかぶ
でも今日はおくりて出てはくれるなと妻はそさくさと出ず
朝焼けてほほに涼しき冷気受け空を見上げて妻思うなり
8時間妻は留守なり有益に時を過ごさむことをのみ思う
人みればただ美しいその言葉そう言う他になんと言うべき
歌なせば言葉使いに限りあり限りの中にあるにしかざり
困苦にありただ明日の外出と買い物などに興をよす
老いの唄さまざまにありぬべしこれからの老いどうなりぬるや
連れ立ちて後田のふちに佇みて鳥が飛び立つしばしの間にも
何事も歌になすため在るものと信じて今日も歌を詠むなり