Toe shoes
月乃助


 靴の、物語り

【 冬の靴の同意語が、なんだって?
  仲間はいるのかって? 】
― 冬の寒さを、雨のぬかるみをさえぎる
  保護してくれるものをさがすの、
  心をかざった言葉のようなものを、
  体の一部のような、それでいて、安心させてくれる

【 本当に、そんなものはあるのかい? 】
― だって、みな履いているもの、だったら、
  街はどこもかしこも、そんなのばかりが歩いて、
  いったい、裸足で歩くのは、この街にはもう似合わない
  きっと、危ないと、拳銃のようにそれを指して
  人は言うのかもしれない

【 誰もたくさん持っているじゃないか、
  用途が違うし、雨のときにはレイン・ブーツだったり、 】
― そんな言い訳ばかりが通じてしまう
  だれも失うことを恐がっているのでしょう、
  靴下の暖かさに、それが覆う物を大事にしすぎるあまり、

【 着る物ってこと、そうなのだろう、大きな範疇からみたら
  それだって、作られたものさ、 】
― あたしは、履かないよ、
  履く必要がないもの、舞台の上をそれで歩くわけにはいかないから
  必要なのは、街のアスファルトの通りだろうし

【 靴に反対するやつもめずらしい、
  生まれついてこのかた、みなそれをそのまま受け入れているのに、 】
― そうじゃなくて、創造の中では
  誰も重い靴なんか履きはしない、そうでしょ、 
  街でしか必要ないもの、それがために、みな苦労している
  きっと、誰もがそれを脱いでみたいにちがいない
  だけど、こわいということ、
  なら、靴と同等のものを探したら良いのよ

【 それじゃ、おまえさんはどこへ行くんだい? 】
― 靴を履かないですむところって言ったら、
  ドアを開けた先に、地平線までも雁の群れがいたけどね、
  誰も、靴なんて探していなかった、
  だいたい、雁たちは靴を履いたりしないしね、

【 見つかったのかい?靴を探していたのではないのだろう、
  そうでなく、靴と同等の物を、靴の仲間を探していたはず、 】
― 守る、守られる、保護したり、どれだって、靴が仲間に求めるもの、
  それが、今、ここにはないから、
  求めながら、失っているのかもしれない、だから、欲しがる、

【 まるで、靴になったような物言いだね、 】
― だって、そうよ、あたしはずっと前に靴だったかもしれない、
  生まれ変わるのは、動物や鳥の話じゃないって、
  これは、あたしの想像かしら
  靴になった気分、
  それを味わいながら、裸足のあたしは、靴を放棄するの、
  それって、靴を否定することじゃないからね、
  だったら、靴もサンダルもブーツも…

【 ああ、難しく考えるのはよそう、
  結局、トウ・シューズみたいなものさ、
  靴の気持ちは分からないってこと
  街を歩く感覚さえもね、だったらそうしたいって、
  言ったらいいさ
  一生に一度くらい
  よごれるにまかせて、
  好きなところを好きなだけ 歩くのさ、
  それが ほんとうにできるのを夢見ながら 】




自由詩 Toe shoes Copyright 月乃助 2009-12-12 05:09:12
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