兆し
石瀬琳々

「笑っているの」と訊ねると
「笑っている」と応える


木の葉が風に舞って
肩越しに落ちかかるまひる
赤い葉っぱが嬉しくて
赤い色がかなしくて
その指先をもとめて手をのばすの



耳を澄ますと冬の匂いがほら
木立の向こうの空の彼方から


何かが生まれる前の
何もない静かな片頬のえくぼ


雲間からこぼれる ひかり ひかり
何か囁くような かすかな予兆


落ちてくる
わたしのもとに落ちてくる
いつか雪になるだろうか
あるかなきかの手触りで
それは思いになるだろうか


(誰か知らないだろうか)



「泣いているの」と訊ねると
「泣いている」と応える


凍えた指先をあたためたくて
そっと手のひらを重ねたくて
手をのばすの




自由詩 兆し Copyright 石瀬琳々 2009-12-10 13:47:02
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