死神
済谷川蛍

 彼は何度も自分の死を夢想した。
 自殺願望によるものかマゾ的な嗜好かナルシズムによるものか、何なのか。
 臨床によっても解明不可能な病だった。
 本当に死ぬわけではないので、彼は何度も妄想の中で死に続ける。
 愉悦を伴う偽りの死。
 彼はいつしかそれを犬の姿をした悪霊に取り憑かれたせいだと妄想するようになった。
 それは決して懐くことはなかった。
 漆黒の痩躯に瞳孔だけが緑閃光にかがやいていた。
 髭に着いた主人の生き血を舌で舐めとった。
 彼の何よりも悲しかったのはそれに対する愛着であった。


自由詩 死神 Copyright 済谷川蛍 2009-12-09 02:52:56
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